第八話 嵐の前の静けさ

 オギンとの戦闘を終えた権造と偵察隊も城へ帰還し、早速ナンが戦闘記録をまとめ、報告を行っていた。

「勇者殿、ナン、ご苦労だった。やはりオギンだったか。」

「はい、モリモーリの森の中頃で奇襲をうけましたが、ヤマゴン様の期待通りの活躍でオギンを撃退することが出来ました。敵は少数でしたが、ヤマゴン様がいなければどうなっていたか・・・。やはりオギンの速さは尋常ではありませんでした。」

 モテが権造の背中をバンバン叩きながら称賛した。

「ヤマゴン殿!聞きましたよ!スキルを効果的に使ってあのオギンを跪かせたとか!敵とはいえ、いい女だったでしょう?見たかったなぁ。」 

「いや、死ぬかと思ったわ!」

「団長、確かに、跪きながらもヤマゴン様を睨みつけるオギンの表情にはゾックゾクしました。」

「ナン、わかってるな。」

 モテとナンは親指を立て頷き合った。

「本気で◯されるかと思ったのに、お前ら何考えてんだよ・・・。」

「ヤマゴン殿、確かに初めての戦闘で大変だったとは思います。ですが、それはそれ、これはこれです。何事も線引きしないと。」

「線引くとこおかしいだろ。」

 ダンディも報告書を見ながら頷いた。

「そうですよ、モテ団長、ナン。ヤマゴン様はそれどころではなかったはずですよ?」

「そうそう!もっと言ってやって!」

「だから、私に詳しくオギン情報を!」

「おいー!!」

「ワシにも!」

「えー!?王様まで!?」

「いやぁ、マランデの四天王の情報はそれほど多くはないのでな。あくまで、そういった意味でな。あの、年齢的にもちょうど良いと言うか、ちょっと小耳に挟んでおきたいなぁと思っ・・・おぶぅ!?」

 少し離れたところでフエラが腕を組んで王様を見つめていた。

それに気づいた王様は小走りでフエラの方に駆け寄って何か釈明しているようだった。

「この国はほんっとに緊張感というものがないな!」

「そうだ!ヤマゴン様がスキルでオギンのスリーサイズを言い当ててましたよ。ねぇ、ヤマゴン様?」

「そ、そうだけど、あの状況で覚えてねぇよ。」

「確か上から85、64、88でしたね。」

「覚えてるのかよ!しかも正確に!」

 ダンディが思わずヨダレを拭いた。

「…いい数字だ!!ラインが想像出来るぜ!」

「おい……それどころじゃないだろ。あっちはどんどん攻めてくるんじまゃないのか?どうするんだよ……。」

 最早、どっちがチョーパラダイスの人間かわからない状態であった。

しかし、ダンディも無策ではないようだった。

「ヤマゴン様、確かに戦力差は大きいですが、マランデ帝国は我が国以外にも緊張関係の国があるので、実際に我々が戦うのは多くて10万くらいかと。ほら、そう考えると少し気が楽でしょう?ね?」

 ほぼ無策だった。

「ね?じゃねーよ。それでも、こっちの倍じゃねーかよ…。いや、て言うかこっちの実際の兵力いくらだよ!」

「本当にリアルな数字は総数で1.5万くらいですかね。」

「もう、話盛るの止めてくれる?」

「ヤマゴン様がいるじゃないですか!」

「だめだこりゃ・・・。」

「あっ、そう言えば、広報課からヤマゴン様に取材の依頼が来てます。」

「取材?」

「はい、国が発行する新聞があるんです。国民と兵士の士気向上のためにも受けていただきたいのですが。」

「まぁ、いいけどよ・・・。」

 当然取材など受けたことが無い権造はまんざらでもない様子だった。

「では、広報課の会議室へ。」

 会議室へ入ると広報課の数人が待っていた。

「あっ、勇者様!はじめまして!私は広報課のターニ=マミエルです!よろしくお願いしますね。」

「よ、よろしく、お、お願いします。」

 ターニはショートヘアにメガネをかけた明るい美人女性だった。谷間が遠慮なく見える服装で、権造は目のやり場に困らなかった。

「では、まず流れを説明しますね。(この人すっごい谷間見てる)」

「は、はい……。」

「まずは流れを説明しますね!まず、これをこうしてこう、その後こうして、こうしてから、こうします。そして、最後にこうして……からのこうして、こうします。あと、もし可能ならこうしたいのですが、難しいようでしたらこうしてこうしても大丈夫です。」

「えっと……、全然わからないんだけど。」

「え……?あ、ごめんなさい!私、頭の中で説明してしまうクセがあって。」

 ターニは改めて書類を出して説明したが、権造はターニの谷間に気を取られてあまり耳に入ってこなかった。

 「ではまず、簡単なプロフィールから、お願いしまーす。」

「な、名前は山……ヤマゴン。39歳です。勇者です。召喚されて違う世界から来ました。」

「前の世界ではどんなお仕事をされてたんでしょうか。」

「え?……えっと、ま、街を巡回してました。」

「へぇ!前の世界でも国の安全を守るために見回りをしていた、ということでしょうか?」

「ま、まぁ、結果的にそういう事に、なるかな・・・。」

「召喚された時、どんなお気持ちでした?」

「な、何か呼ばれるような感じがして、気づいたらこの世界にいました。ビ、ビックリしました。」

「成人しても『マグワーイ』をしなかったのはやはり前の世界でも、それによって得られるものがあった、ということでしょうか?」

「え、えっと、も、ももちろん、したくても出来なかったんじゃなくて、精神修行になるかなーと思って、い、色々誘われた(呼込みに)んだけど、あ、敢えて断ってきました。」

「・・・本当に?」

「え!?も、もちろん!!(疑われてる?)」

「あのマランデ帝国軍四天王の『焦らしのオギン』を返り討ちにしたとのことですが、戦ってみていかかでしたか?」

「えっと、あの、すごく速くて強かったけど、スキルでなんとか出来て良かったです。」

「(子供の感想みたい)一体どのようなスキルだったのでしょうか?」

「あの、ワキ・・・いや、あの、相手を麻痺させるようなスキルです。」

「麻痺というと、パラライズのようなスキルでしょうか。」

「パラ・・・?まぁ、そう、だと思います。」

「では、ここで一般のみなさんからの質問コーナーにいきたいと思います。」

 ターニは大きな袋から大量の書類を取り出した。

「みなさんからの質問が一日でこんなに届いてます。えーと、約5万3千通ありまーす。」

「ご、5万……!?1日で5万……!?」

「順番にいきますねー。」

「え!?全部やる気・・・!?」

「『ゆうしゃさまはどうして、そんなめずらしいおかおなんですか?』」

「いきなり!?どうしてって、……そりゃこっちが聞きたいくらい……。」

「質問に質問で返すのはやめてもらっていいですか?」

「き、厳しいな………。」

「『前の世界での年収はいくらですか?』」

「いや、貨幣価値違うし…。て言うか、ゼ、ゼロ…。」

「さすがです。見返りを求めずに国の平和のために身を捧げていたのですね。」

「う、うん、そ、そういうこと。」

「『好きな女性のタイプは?どうでもいいけど。』」

「一言多いな!サラサラの黒髪ポニーテールで色白で巨乳で清楚系で、メイドコスが似合う子が好きです。あと、出来ればツンデレがいいです。」

「・・・(キモい)『誕生日はいつですか?ほんと、どうでもいいけど。』。」

「さっきと同じやつだろ!?……まぁ、12月24日です。」

「『初めまして!この世界のことをよく知らない貴方に朗報!今なら、”よくわかる!チョーパラダイス王国の全て”を上下巻セットで50%OFF!今すぐお申し込みを!』」

「これ、質問…?いや、いいです…。」

「『迷える貴方へ。神は全てを見ておられます。神を信じ、神に全てを捧げましょう。さすれば貴方も救われます。今入信すれば、この神の壺がなんと50%OFF!』」

「いや、要らね!絶対怪しいやつじゃん!」

 3時間後ー。

「では質問コーナーはこのくらいにして、最後にエロクテー=タ=マランデ帝国との戦いに対する意気込みをお願いします!」

「せ、せっかくなので、頑張ります……。」

「はい、ありがとうございましたー!長時間お付き合いいただき、お疲れ様でした!本当に頑張ってくださいね!」

「はい……。」

 約5万の質問に答えた権造はすでに燃え尽きていた。

ちょうどそこへダンディが入ってきた。

「ヤマゴン様、お疲れのようですね。ヤリーモクが手配出来なかったので、今晩は城の客間でお休みください。」

 その日権造は倒れるように眠るのであった。