第1話 権造召喚される

 時を同じくして、お馴染みの某異世界――。とある王国では国家の危機に瀕し、外部からの力を必要としていた。

「まだ勇者は見つからぬのか!このままでは、我が国は攻め滅ぼされてしまう!」

「ご安心ください、王様。ちょうどたった今、召喚スキルに反応が出たところでございます。」

「おおっ!誠か!」

「この反応…。かなりの勇者と思われます。来ます…!」

 魔法陣が徐々に光りだし、まばゆい閃光が放たれる。辺りは激しい風と光とちょっとした加齢臭で満たされていた。

「勇者よ!現じたまえ!!」

 閃光が収まり、辺りが静まり返る。

「おおっ…!成功か!」

 王様が静かに目を開くと、そこには全裸の権造が横たわっていた。

「な、なんと言うことだ…。この風貌、溢れ出るオーラ、伝説の勇者に違いない!」

 全裸の権造はしばらく動かなかったが、30秒ほど経ってモゾモゾしだした。

「…うぅん。……ん?」

「勇者よ。お目覚めか。」

 王様が全裸の権造に話しかける。

「……ん?ん?なんだこれ?」

 目をこすりながら辺りを見渡すと、何やら儀式の様な装飾が施された部屋だった。

王様っぽい人物と召喚士っぽい人物が権造の左右に立っていた。

二人とも妙にイケメンだ。王様は王様っぽい金の冠に赤いマントを付けていた。

「あれ、これ夢か。」

 召喚士っぽい人物は召喚で力を使い果たしたのか、気だるそうに話しだした。

「すぐに理解出来ぬのも当然でございます。勇者様、あなた様は私が召喚スキルで異世界から召喚させていただいたのであります。」

 それでもまだ権造は全く信じる様子はなかった。

「いや、そんなのいいから。起きたらがっかりするから、そんな都合のいい夢なんて見たくないし。」

「勇者よ!そなたにはこの国を救ってもらわねばならぬのだ!我らに力を貸していただきたい。」

「何それ。だからこんな夢…。」

 そう言いながらも、権造は次第に意識がハッキリしてくるのがわかった。冷たい床の感触もやけにリアルに感じた。

「う、嘘だろ…。まじかよ。しかも全裸だし…!?」

「すぐに召し物を持って参れ。」

 権造は質が良くセンスのある服を着せられると、別室へ案内された。

「(これ、マジで異世界きちゃったのか…?めちゃめちゃ豪華な建物だな。城…だな。)」

 謁見の間へと辿り着くと、王様は玉座に座し、権造は王様の前に立たされた。周りには数名の人物が並んでいた。

「王様!召喚に成功したのですね!」

 見るからに騎士団の団長っぽい鎧を着たイケメンが声をかけた。

「うむ。たった今着いたばかりだ。勇者よ。まずは我が国が置かれている状況を説明しよう。ダンディ頼む。」

【ダンディ=チョイワール】

 ダンディと呼ばれた参謀っぽい人物が地図を広げる。この男もちょいワル風のイケメンだった。

彼はややマイペースなところはあるが、国に対する忠誠心は高く、実は非常に熱い男。

趣味は草むしりである。

 ダンディが地図を指差しながら説明を始めた。

「私は参謀のダンディ=チョイワールと申します。それでは説明いたします。我が国はこの中央ユラシアンシンユラシアン大陸の南端に位置するチョーパラダイス王国。古ユラシアン語でチョーパラは『自由な』、ダイスは『関係』を意味します。そして、こちらが栄えある王様イケメンヌ=チョーパラダイス12世様です。」

イケメンヌ=チョーパラダイス12世

 チョーパラダイス12世は真摯に国政に取り組んでおり、国民からの支持率は非常に高い。特に人を見る目に長けており、臣下の得手不得手や女性を悦ばせるポイントを見抜く力はズバ抜けている。また狩りも得意としており、よくイチゴやブドーを狩りに出かけている。

「そう言えば、まだ勇者様のお名前を聞いておりませんでした。勇者様、お名前は?」

「はぁ・・・。山田、権造ですけど。」

「ヤマドゥ・・・ゴンドー様、でございますか?」

「山田、権造だって。」

「じゃあ、ヤマゴンでいいですかね。」

「勝手に略すなよ。初対面で失礼だろ。」

「申し訳ございません、ヤマゴン様。」

「おいっ!」

 権造がイラついていると最初の騎士団団長っぽい男が割って入ってきた。金髪青眼のイケメンだ。

「ヤマゴン殿。まぁ、良いではありませんか。私はこのチョーパラダイス王国騎士団団長のモテ=モテール。お見知りおきを。」

【モテ=モテール】

 モテ=モテールは成人と同時に騎士団へ入団。持ち前の恵まれた体格にカリスマ性を兼ね備えた熱血漢。過去の対マランデ帝国戦での活躍が目覚ましく、30歳の時に団長に就任。妻ワタシモ=モテールと2人の子供の4人家族。

 隣の騎士団副団長っぽい男も口を開いた。黒髪の爽やかイケメンだ。

「我が名はナン=パスールと申します。騎士団副団長を担っています。勇者殿、共に戦いましょう!」

【ナン=パスール】

 ナン=パスールはモテと同じく成人と同時に騎士団へ入団。やや線の細い爽やか系のイケメン。体格は騎士団の中では小柄な部類に入るが、その俊敏な動きはパワー不足を補って余りあるほど。その俊敏さから、偵察任務を得意とする。意外にウブでナンパはしたことがない。

「(イケメンしかいねぇ!)」

 最後に王様の横いた王妃っぽい女性が近づいてきた。北欧系のとんでもない美女で巨乳だ。

「私は王妃のフエラ、どうかこの国を救ってください。このままでは我が国は・・・。」

【フエラ

 フエラは18歳の成人を迎えると同時に王妃となった北欧系の巨乳美女。奉仕活動などにも積極的で、誰に対しても分け隔てない性格のため、ファンクラブができるほど国民からの人気も高い。谷間の強調と上目遣いがクセになっている。

 フエラは涙目でめちゃくちゃ上目遣いで谷間を強調しながら、手を握ろうとして握るのを止めて、懇願してきた。

「フエラ、控えなさい。」

「あっ、申し訳ございませんでした…。」

 何故か、王様が王妃を権造から遠ざけた。ダンディが続ける。

「今、我が国は北方のエロクテー=タ=マランデ帝国と緊張状態にあります。すでにマランデ軍は進軍を開始しており、前線部隊はすでに国境付近まで到達しております。」

「いや、ちょっと待って。そんな敵の軍隊を俺1人でどうにかしろと…?」

「いえ、もちろんヤマゴン様お1人でどうにかしろと言う訳ではございません。我が国には騎士団がございます。それに、最強の勇者であるヤマゴン様がいれば百人力なのでございます。」

「ちなみに、この国の戦力は?」

「えーと、我が騎士団の兵力は常駐が約3万。予備役が約2万の合計約5万です。たぶん。」

「なかなか多いな。」

「ちなみにマランデ帝国の戦力はおよそ50万!」

「多いな!!」

「我が騎士団で1万くらい相手にするので、ヤマゴン様には残りの49万と戦っていただきたい。」

「いや、計算おかしいだろ。」

「何せ、ヤマゴン様は齢40前にして、未だ『マグワーイ』を経験しておられません。これは大変な事でございます。並の精神力ではとても成し得ない修羅の道。我々の世界ではマグワーズと呼ばれ、伝説の存在でした。それくらいはやってのけることが出来るはずです!いや、やってください!」

「いや、ちょっと……。何?まぐわーいとかまぐわーずって…。」

「成人を迎えた男女がするアレのことを我が国では『マグワーイ』と呼んでおります。ヤマゴン様の世界では違う名称なのでしょうか?」

「え、え?も、もしかして、せ、せっ…せっ、セッ…スのことか…?」

「ヤマゴン様の世界ではセッ◯ス!!というのですね。いい響きです!セーッ◯ス!!」

「叫ぶなよ。」

 体格のいいモテが権造の前に跪く。

「ヤマゴン殿!その類まれな精神力と個性的な顔面はマランデとの戦いに必要なのです!どうか力をお貸しください!マランデ軍はそれはもう強くて……。」

 ナンもモテの横で跪く。

「ヤマゴン様!我々だけでは太刀打ち出来ないのです。どうか真性マグワーズの伝説を見せてください!」

「……もしかして、俺が童貞だって、バカにしてる?で、でも、別に出来なかったんじゃなくて、敢えてしなかったというか、そういう機会に恵まれそうになることを避けていたというか…。」

 権造が必死に取り繕おうとするが、ダンディが遮る。

「ヤマゴン様の世界ではドゥーティ?と呼ばれているのですか?心配しないで下さい。理由なんてどうでもいいんです。我が国においてその歳で未経験というのは、間違いなく勇者なのです!」 

「ぐぅ……。でもよ、そんなヤツなんてこの国にもいっぱいいるだろ!」

 ダンディが静かに首を振る。

「ヤマゴン様、この国ではみんな成人を超えたらすぐに『マグワーイ』をするんです。1人の例外も無く。だって、普通ヤりたかったらヤるでしょう?なのに、ヤマゴン様は……。あちらの世界で余程の事情がお有りだったとお見受けします。」

 王様が半笑いで喋り始める。

「ワシは18歳になってから、毎日ヤっとるぞ。フエラ以外にも1000人はヤっとるな。」

「私だって、王様以外に1500人は『マグワーイ』をしてますわ♪」

「わっはっは!フエラには敵わんなぁ!」

「うふふふふ♪」

「こんな話をしていたらヤりたくなってきたわい!フエラ、メイクラブルームへ行くぞ!」

「まぁ、王様。さっきしたばかりじゃないですか♪でも、いきましょう♪」

 そう言うと2人はスキップしながら奥の部屋へ消えていった。そんな二人を見ながら、権造はふと思った事を口にした。

「そ、そんなに自由にヤってたら、人口が増えまくるんじゃないのか?」

ダンディが意外そうな顔をする。

「逆に聞きますが、どうして自由にヤったら人口が増えるんですか?」

「そりゃ、ヤったら、その……アレするかもしれないだろ…。」

 権造は恥ずかしげに小声でモゴモゴ喋った。逆にダンディは自信に満ちた声で話した。

「成人になったら自由ですが、我が国では成人前の『マグワーイ』は法律で禁止しております。また、教育は徹底して行っています。」

「そ、そうなのか……。」

 ダンディが次第にソワソワ感を出しながら口を開く。

「ヤマゴン様、これが我が国では日常なのです。私も『マグワーイ』したくなりましたので、とりあえず今日はもうこの辺りで。宿を用意してありますので、また明日適当な時間にここに来てください。じゃあ、また明日!よーし、今日は誰としよっかなー!」

 宿屋の地図を権造に渡すとダンディは走って出ていった。

「団長!私も……!」

「応よ、ナン!夜の街へ向け突撃態勢!いざー!!ヤマゴン殿、また明日ぁぁ!!」

 騎士団の二人も、剣と兜を置いて走って出ていった。

 「なんなんだよ、これ。絶対勝てねーだろ…。」

 権造は途方に暮れるしかなかった。