
第四話 翌朝
翌朝、気持ちよく目覚めた権造は朝食もしっかりと食べた。焼きたてのパンにバターのような物が塗られた物とコーヒーのような飲み物だった。
「コーヒーだな。食べ物はほとんど違和感なくて助かったぜ。」
食べ終わると権造は身支度を整え、素直に城に向かうことにした。
受付で肌がツヤツヤのコンヤスールと目が合い、権造は気まずさで目を逸らしたが、コンヤスールは全く気にしていないようだった。

「勇者様、頑張ってくださいね〜。」
と、コンヤスールは手を降って権造を送り出したが、権造は目を逸らしたまま手を上げて応えるだけだった。
城門に着くと衛兵が駆け寄ってきた。
「勇者ヤマゴン様!おはようございます!お待ちしておりました!謁見の間へどうぞ!」
「おはようさん。昨日は暗くて気づかなかったけど、めちゃくちゃでかくて頑丈そうな城だな。」
「はい!このパラダイス城はちょうど昨年完成したばかりで、万が一の場合は全国民を収容出来る程の広さと丸二年分の食糧が備蓄されています。」

「え?去年出来たばかり?その割には積年の貫禄を感じるな…。」
「それは城を設計した建築家のシロタテール=テキトーニ氏の『ふんわりダメージ加工製法』が活かされているからです。」
「なんだそりゃ。ジーンズじゃあるまいし。でも、確かにすごいな。ちなみに、人口ってどのくらい?」
「この首都パラダイスの人口は約5万人です。国全体では10万人くらいですかね。」
「10万か。…ん?昨日のダンディの話と数字がちょっとおかしい気がするが?」
「ダンディ様は勢いでよく話を盛られますからね。ははは。」
「まじかよ…。色々と大丈夫なのか…?」
「ダンディ様はいざとなったら、超絶頭が切れるお方なので心配いりませんよ!」
衛兵の太鼓判を聞いても不安が拭えない権造であった。
途中城内ですれ違う人々が皆権造に会釈・敬礼をしてきた。今までそんな経験のなかった権造は気分を良くしていた。
「部分的に納得出来ないところはあるけど、悪い気はしないな。」
権造は謁見の間に辿り着いたが、中には誰も居なかった。仕方なく権造は座って待つことにした。
しばらくして最初にダンディが現れた。

「あっ、ヤマゴン様!おはようございます。ヤリーモクはいい宿だったでしょう?コンちゃんかセフちゃんとヤっちゃいま…あ、ダメなんだった。」
「『ダメなんだった』じゃねーよ!二時間待ってるんだけど!?」
「へぇ、そうなんですか。」
「こいつ……!!」
「まぁまぁ、ヤマゴン様。焦っても良い事になりませんよ?『急がばガバガバ』と言うでしょう?」
「いや、国の危機だろうが……。どういう意味だよ。」
「我々としては、ヤマゴン様がいるので大船に乗った気になってるんですが。それにちゃんと対策は考えますから。」
「どうも緊張感がないな……。」
「我が国では『マグワーイ』に勝るものはないですからね。ヤマゴン様も普通にヤればいいの…あ、ダメなんだった。」
「わざとだろ!てか、他の奴らはどうしたんだ?」
「さぁ、昼までには来るじゃないですかね。他の方々が来られるまで、私と簡単な打ち合わせをしておきましょう。」
「打ち合わせって何をすればいいんだ?」
「まずは敵についてもう少し情報の共有をいたしましょう。」
ダンディが地図を広げ、説明を始めた。
「昨日も申しましたようにこちらのエロクテー=タ=マランデ帝国から侵攻を受けているわけですが、マランデは広大な国土面積の割に資源に乏しく、比較的資源が豊富な我が国は過去にも幾度となく侵攻を受けています。」
「昨日聞いた戦力差でよく防いでるな。」
「かつてはそれほど戦力差はなかったのですが、五年前にマランデ初の女帝ペチョペリーナが皇帝の座に就いてから軍事拡大路線に舵をきりました。それから動きはなかったのですが、その5年間戦力を蓄え続けていた様です。」
マランデ帝国では当時の皇帝サキッポダーケン5世の国を顧みない暴政で国庫が傾き、経済が破綻寸前になっていた。
軍事部門のトップだったペチョペリーナが皇帝サキッポダーケン五世を国を乱した戦犯として糾弾。世論を味方につけたペチョペリーナはサキッポダーケン5世を皇帝の座から引きずり下ろし、自らが皇帝の座に就いたのだった。
「満を持して攻めてきたわけか。50万だろ?無理ゲーじゃん。」
「いえ、ヤマゴン様なら大丈夫です。」
「そもそも、何を根拠にそう言えるんだ?俺特殊なスキルなんてないぞ…?」
「…知りたいですか?」
「当たり前だろ。」
「ヤマゴン様が『マグワーズ』であることは紛れもない事実でこざいます。」
「もはや否定はしない。」
「40年近く『マグワーイ』をしないと神に誓って、ということになってますが、本当はヤってないと言うか、ヤりたいのにヤれなかったんでしょう?」
「ぐぅ…。」
「本当はヤりたいでしょう?」
「あ、当たり前じゃねーか!!俺だって、ヤってみたい!!ヤってみたいんだよぅ…。うぅ…。」
「そう、それです!その『ヤりたくてヤりたくて仕方がない』という気持ちと、その個性的な顔面!我が国民にはない精神と顔面です。」
「顔面は余計だろ!」
「ちなみにまだお伝えしてませんでしたが、マランデ帝国軍の大半は女性兵士です。しかも、魅力的な女性ばかりです。訓練で鍛えられ、引き締まったその肉体はまさにパーフェクト。」
「……え?」
「なので、ヤマゴン様のその顔面と滲み出るねっちょりとしたいやらしさと不快感がマランデの女性兵士に絶大な力を発揮するのです!」
「今までそう思われてたのか…俺。確かに身に覚えはないことはないが…。で、でも!50万人以上もいるなら、もしかしたら俺みたいな男でもいける女も一人くらいるんじゃないのか!?」
「その点は対策をうってあります。」
「どんな?」
「ヤったら爆発します。」
「爆発……?何が?」
「ヤマゴン様の股間のミニヤマゴン様が爆発します。」
「はぁぁああ!?どういうことだよ…!?」
「万が一ヤってしまったら、その瞬間ヤマゴン様は力を失います。どのみち、すぐ◯されてしまうでしょう。なので、そういう魔法がかかっているのです。」
「いやいやいやいや、なんだよそれ!!それ先に言っといてくれよ!て言うか、魔法使えるのかよ!?」
「魔法と言うか、我が国ではスキルと呼んでますね。」
「て言うか、なんで俺だけそんなリスク抱えないといけねんだよ!」
「まぁ、ヤマゴン様なら大丈夫ですよ。お守りみたいなものです。」
「いや、守られないんだけど?」
権造がダンディにつかみかかってていると、モテが入ってきた。
「おやおや、お二人とも熱く語らっているご様子で。」
「モテ団長、おはようございます。」
「うむ。おはようダンディ殿。ヤマゴン殿、昨晩はヤリーモクへお泊まりになったそうで。いい宿だったでしょう?コンヤスールさんかセフーレさんと『マグワーイ』を……あ、ダメなんだった。」
「お前らなぁ…。俺は二時間待ってたんだぞ!」
「そうだったんですね。それは申し訳ない。ですが、モーニングしていたもので。」
「朝飯食うのにそんなに時間かからないだろうが。」
「朝飯?食事ではなく『モーニングマグワーイ』のことですが…?」
「朝からヤってんのか…!」
「えぇ?普通でしょう?ヤマゴン様もしてくれば・・・あ、ダメなんだった。」
「ほんっとお前ら・・・!!」
その時、副団長のナンが少し慌てた様子で謁見の間に入ってきた。

「団長!大変です!あ、ヤマゴン様、ダンディ様おはようございます!」
「ナン、どうした!?」
「マランデの先遣隊が国境線を超えたようです。しかも、その先頭は『|焦《じ》らしのオギン』だそうです!」
「なんだと!?いきなりマランデ四天王の『焦らしのオギン』だと!?ダンディ殿、これは…。」
「それだけ本気だということですね…。これは早速ヤマゴン様の出番ですね。」
「え〜、なんだよそいつ…。」
「オギンは凄まじい俊敏さとその焦らしテクニックで焦らし上げた挙句に放置するという恐ろしい女です。我が騎士団の精鋭も何百人泣かされたか……。」
「え?え?泣かされただけ…?」
「ヤマゴン殿、オギンのテクニックを舐めてはいけません。寸止めされた上に放置されるなんてどれほど苦しいかご存知ないのですか!?」
「知らねーよ。」
「ヤマゴン様、今こそ『マグワーズ』の力を見せてください!」
「嫌だよ〜。そんな妙ちくりんなやつと戦うの…。それに下手したら爆発するし〜。」
「爆発?あぁ、ヤマゴン殿なら大丈夫でしょう。ただ、オギンには気を付けて下さい。ひとまずナン、ヤマゴン殿の初陣を兼ねて威力偵察頼む!」
「承知!ヤマゴン様、行きましょう!」
「俺は承知しないけど。」
権造はナンに武器庫へと引きずられて行くのであった。