第五話 スキル付与

「ようこそいらっしゃいました。勇者殿。ワシはこの武器庫の管理人兼スキル付与術士兼スキル鑑定士のオーチン=コデーカイでございますじゃ。」

 武器庫では豊かな白髭を蓄えたいかにも魔法使いのような高齢の男性が待ち構えていた。

高齢だが、渋いイケメンには違いなかった。

オーチンは体の一部にとても自信をもっており、それは非常に立派なものであった。

過去には『年末マグワーイコンテスト』を5連覇するという偉業を成し遂げており、その記録は40年以上破られていないという。

なお、念の為に記しておくが、オーチンが自信をもっているのは視力である。

「魔法使い……?」

「いえ、スキル付与術士でございます。魔法なんて使えませんのじゃ。」

「ヤマゴン様、ここで装備の選択とお待ちかねのスキルを付与してもらいましょう!」

「え!マジ!スキル!?やるやる!」

 権造はいよいよ異世界物らしい展開にテンションが爆上がりだった。

「ちなみに、ナンはどんなスキル持ってるんだ?」

「はっ、私のスキルは味方の士気を上げる『モラルブースト』と自身の攻撃速度を上げる『ラッシュ』などです。」

「おぉ、かっこいいな!俺もラッシュ欲しいな!」

「では勇者殿、こちらにお座り下され。」

 権造は普通の椅子に座らされた。

「では、目を瞑って私の声に耳を傾けてくだされ。」

「わ、わかった。緊張するな……。」

 権造は言われた通り目を瞑り、意識を集中させた。

「エンヤァ〜ヨッコイショ〜スットコドッコイショ〜ハァ〜!!!!ペッペッ!ペッ!ペッペッペ!!」

「(な、なんかめちゃくちゃツバが飛んでくるんだが)」

「ハァ〜!ペッペッペ!ぺぺぺッぺ・・・カァ〜ッペッ!!」

「おい!最後のは良くないだろ!!」

「いえ、ヤマゴン様。コデーカイ様がここまで気合入れてやるのは珍しいことですよ!」

「そ、そうなのか。」

「最後のは痰がからみましたわい。わっはっは!」

「おいっ!!……で、どんなスキルがついたんだ?」

「ふむ。では確認いたします。まぁ、気合は入れましたが、結局ランダムでつきますのでな。」

「えぇ!?」

「ほぉ…。あ、あ〜……(あちゃー)。」

「今あちゃーって言っただろ!嫌な予感しかないんだが。」

「ヤマゴン様、大丈夫です。あって無駄なスキルなんてありません!」

「勇者様のスキルですが、今のところ判明しているのは……まずは女性のスリーサイズがわかる『シーザ・スリーサイズ』。次に女性を不愉快な気分にさせる『アンプレザント』。そして、体臭を強化(悪い方に)する『ワーキンガー』です。」

「ロクなスキルがないじゃん……。」

「いえ、むしろヤマゴン様にピッタリな気がしますが。」

「あと……こ、これは!?」

「良いのがきた!?」

「はい、相手の動きを止める『ストッピュ』というスキルです。このスキルは初めて見ましたですじゃ。」

「え!相手を止められるスキル!?まじか!」

「すごい!ヤマゴン様これはすごいですよ!」

「ただし、対象は女性限定なのと、一度に二人までしか止められないようですじゃ。さらに、止めた時間の5倍の時間分勇者殿の寿命が縮まるので、使いすぎには注意が必要ですじゃ。」

「え!5倍……でも、そのくらいの価値は十分あるな。うへっ。うへへっ……。うふへへへふへ…。」

 権造はナンとオーチンがドン引きするくらいの気持ち悪さで笑った。

 ナンが小声でオーチンに話しかけた。

「コデーカイ様、この気持ち悪さに先ほどのスキルを加えたら相当な威力ですね。さすが伝説の『マグワーズ』だ。」

「うむ。マジキモいな。」

「何話してるんだ?」

「あ、いえいえ。やっぱりヤマゴン様はすごいなーと思って。ねぇ、コデーカイ様。」

「うむ。マジキモいな。」

「なんでだよ!!」

「まぁまぁ、ヤマゴン様、後はこの装備を身に着けてください。」

「ワシが鍛錬に鍛錬を重ねた勇者殿専用の鎧です。あらゆる攻撃から身を守ることが出来る可能性を秘めておりますのじゃ。」

「『可能性』っていうのが気になるけど……コレめちゃくちゃかっこいいじゃ〜ん。」

 権造はウキウキしながら鎧を身に着けてみたが、非常に軽く手足の可動領域が制限されることも一切なかった。

見た目も、滑らかな光沢のある銀色でスマートなフォルムの鎧であった。

何より、権造の個性的な顔面や体型など負の部分が全て隠されるのであった。

「この鎧最高。かっこいいし、動きやすいし。で、武器は……、は?」

 権造に手渡された武器とは、厚紙で作られたハリセンとプラスチックのメガホンであった。

「おい、これなんの冗談……?」

「はい?何か問題がありますでしょうか?」

「武器については問題しかないと思うが。」

「ヤマゴン様はまさか、剣や槍を振るって戦うおつもりでしたか?素人がなんの修練も無しにいきなり戦場で剣を振るうなど無謀なことです。」

「メガホンとハリセンを持って戦場に向かう方が無謀なのでは?……まぁ、確かに人を斬ったりしたことないけども。」

「そうでしょう?例え剣で相手を斬れたとしても、手足がアレしたり、内臓がナニしたり、返り血を浴びたりする中で素人がまともに精神を維持することなど到底出来ません。その前にヤマゴン様の方が斬られるでしょうね。」

「おぇ……。」

「だから素人がでしゃばろうとしてんじゃねーよ!」

「えぇ!?その言い方ひどくない?て言うか、そっちが俺を戦わせようとしてんじゃん!」

「まぁ、ヤマゴン様はそれで十分戦えますので。むしろ手ぶらでいいんじゃないかと思うくらいですが。」

「一体俺を何だと思ってんだよ……。」

「それと、いざという時には兜は外してくださいですじゃ。」

「……なんで?」

「それはご自身の顔面に聞いてみてくだされですじゃ。」

「どういう意味だよ。」

「では、私は部隊編成を参りますので、ヤマゴン様はスキルのイメトレでもしておいて下さい。後ほど城門で合流しましょう。」

 そう言うとナンは兵舎の方へ向かって行った。

「そう言えば、スキルってどうやって使うんだ?」

「先ほど付与が判明したスキルの効果をイメージしながらスキル名を唱えるのですじゃ。慣れてくるとイメージだけで発動出来るようになりますじゃ。」

「じゃあ……周りに女の子いないし、こんなの使いたくないけどこれしかないな。えーと、効果をイメージして……。『ワーキンガー』!」

 権造がスキルを唱えると権造の体から薄い緑色と茶色が混じったようなオーラのようなものが発現した。

「うっわ!くっさぁ!!勇者殿、ちょ、止めてくだされ!止めて!おぇ……。」

「え、そんなに臭い?自分ではわからないな……。」

「勇……おぇ、ゆ…おえぇ……ガクッ。」

「なんか、ごめん。」

 気を失ったオーチンを残して、権造は城門へと向かった。

 

 権造は城門に向かう途中で、見覚えのある人物に遭遇した。

「あ、あれは、タノメバちゃんでは……?お〜い。」

「え!?…あら、勇者様でしたのね。鎧を着てらしたので気がつきませんでしたわ。お体は大丈夫ですの?(何か臭いですわ)」

「お、おかげさまでね。タノメバちゃんは、し、城に用事が?」

「えぇ、私は城の書庫で学芸員をやっていますの。」

「へぇ、城の書庫なんてすごいね。(…あ、ヤバいこと思いついた)」

 権造の脳裏にスキル『ストッピュ』のことがよぎった。

「(今なら周りに人いないし、こ、ここでタノメバちゃんの動きを止めたら……うへへぇ)」

「勇者様、そろそろ私行きますわね。」

「あ、う、うん。(スキルをイメージして…)ストッピュ!」

「では、ごきげ・・・」

 軽く会釈をした状態でタノメバは動きを止めた。

「うっわ!マジか!あ〜、この子やっぱかわいいなぁ〜。うへへぇ。」

 権造はあらゆる角度からタノメバを視姦した。そして、周囲を見渡し人がいないことを確認してゴクリとツバを飲み込んだ。

「ちょ、ちょっとおっ◯いとか触らせてもらおっかな……。少しくらいわからないだろうし、いいよな……。」

 権造の手はビビって激しく震えていたが、意を決してタノメバの胸に手を伸ばした。

「あっはぁ……!触った!自分の手で女の子のおっ◯い触ったぞ!やった!俺はやったぞ!」

 しかし、実際は服に指が掠っただけであった。小心者の権造にはこれが精一杯なのである。

「じゃあ、そろそろ、ストッピュ解除。」「…んよう、勇者様。(臭かったぁ)」

 何事もなかったようにタノメバは立ち去って行った。

「またね〜。……五分くらいか。寿命二十五分かぁ。このくらいなら問題ないな。ぐへぇ、最高のスキルだな。」

 権造は勇者とは思えない顔をしていた。

「ヤマゴン様!こちらです!」

 城門ではナンと団員約百名が整列していた。権造の登場に団員達はざわついていた。

「あ、あれが伝説の…。」

「うむ。オーラがすごいな。」

「アーマーはかっこいいな。」

「なんか臭いな。」

「ほんとだ、臭いな。」

「くせぇな。」

ナンに手招きされ、権造は整列した部隊の正面に立たされた。

「こちらが、伝説の勇者ヤマゴン様だ!早速戦闘に参加していただけることになった!ヤマゴン様の戦い方を目に焼き付けるように!」

「はっ!!」

「これから我が隊はすでに越境したマランデの先遣部隊に対し威力偵察を行う!先遣部隊と言え、あのオギンが率いているとの情報だ。くれぐれも油断、深追いはしないように!」

「はっ!」

「ヤマゴン様も一言どうぞ。」

「えっ!?いや、あの、が、頑張ります…。」

 そして、権造はハリセンとメガホンを携えナン達とともに出撃するのであった。