第九話 スキル職人

 翌朝、権造がまだ布団にくるまっているとドアをリズミカルにノックする音が聞こえた。

トントンツートントントン(お)、ツートンツートントン(き)、トンツートンツーツー(て)。

「……モールス信号かよ!」

「あ、わかりました?おはようこざいます、ヤマゴン様。」

 ドアを開けるとダンディが立っていた。

「おはようさん。」

「勇者様殿、おはようございますじゃ。」

 ダンディの後ろにはオーチンも立っていた。

「こんな朝早くから、何?」

「実は先日の戦闘の報告書とナンの話から、ヤマゴン様のスキルについて、オーチン殿がヤマゴン様にお伝えしたい事があるそうで。」

「はい、私には息子がおりまして、ヤツはこの国で唯一『スキルを加工するスキル』を持っていますのじゃ。そこで、実際にスキルを使用された様子から、息子のスキルがお役に立てるのではないかと思いましたのですじゃ。」

「え!そんなこと出来んの?したい!」

「では、後ほど我が屋敷へお越し下され。」

「ヤマゴン様、では朝食をとられたらオーチン殿の屋敷へ向かいましょう。」

「わかった!」

 権造はこの世界にかなり馴染んできていた。

 顔を洗って着替えると権造は王様達と同じ部屋に案内された。

そこはまさに王族の食卓といった贅沢な空間だった。

王様とフエラがすでに食事をしていた。

「勇者殿、おはよう。しっかり食べていきなさい。」

「勇者様、おはようございます。」

 フエラは挨拶をする時も谷間を強調して上目遣いの姿勢だった。

「お、おはようございます。すごい料理だな。これは何ていう魚?」

 料理について尋ねるとテーブルの横に立っていたシェフが説明をしてくれた。

「そちらはホントーニイイノ海(かい)で今朝、水揚げされたばかりの高級魚モウイーノをシンプルに塩で焼き上げてございます。レモーンを絞って召し上がり下さい。」

「へぇ、美味そう。この肉は?」

「そちらはモリモーリの森で狩られたウッシッシのモモ肉を氷温で一週間熟成させ赤ワインでフランベした物でございます。レモーンを絞って召し上がり下さい。」

「このデザートは?」

「そちらはシロップ漬けにしたレモーンの果肉をたっぷりと使い国産小麦を使用したパイ生地で包みサクサクの口当たりに焼き上げたレモーンパイです。レモーンを絞って召し上がり下さい。」

「さっきからレモーン絞らせ過ぎだろ!」

「はっはっは!レモーンは我が国の特産品なのでな。」

「わかったから、とりあえずお水ちょうだい。」

 権造が好きそうな、メイド服を着た本物のメイドが高級そうな器に注がれた水を持ってきた。

「こちらの水はドスケーベ山(さん)の雪解け水を蒸留した軟水です。レモーンを絞ってお飲み下さい。」

「絞ればいいんだろ!あぁ、酸っぺーな!!」

 権造は文句を言いながらも、次第にその酸味がクセになり、全ての料理にレモーンを絞りかけるのであった。その様子にシェフが一言声をかけた。

「あっ、勇者様、その若鶏のモモ肉に粉をつけて油で揚げた物にはレモーンはかけないでください。合いませんから。」

「一番合いそうなヤツだろ!」

「いや、その感覚はちょっとよくわからないです。」

 王様達も同調した。

「鶏肉を揚げた物にレモーンとか、頭イカれてんな。」

「ここに来て文化の違いが痛い・・・。」

 思ったほど馴染めてはいなかった。

 食事を済ませると、権造は部屋に戻って身支度を整えた。

するとまたドアをリズミカルにノックする音が聞こえた。

ツーツートンツートントントン(じ)、ツートントン…。

「いや、モールスはもういいから。」

「あ、そうですか。ではオーチン邸に向かいましょう。」

 オーチンの屋敷は城から10分程歩いたところにあり、かなり大きな屋敷だった。

「オーチン殿。お邪魔しますよー。」

「おぉ、いらっしゃいましたか。おい!勇者殿が来られたぞ。」

 オーチンが呼ぶと奥からオーチンの息子と思われる男性が出てきた。

 髪がボサボサで様々な工具を体にぶら下げており、職人色の強い見た目だった。

「ようこそ我が屋敷へいらっしまいました。私がオーチンの息子ケッコーチン=コデーカイです。お見知りおきを。」

「よ、よろしく。」

「早速ですが、父からの話と戦闘報告書を拝見しましたところ、ヤマゴン様は四種のスキルをお持ちとのことですね。オギン戦では最も強力と思われるストッピュを使うまでもなくあのオギンを跪かせたとか。すごいですね。」

「ま、まぁな。」

「そこで、オギンを苦しめたワーキンガーについて、妙案があります。」

 ケッコーチンはイメージスケッチを見せながら話し始めた。

「こういうことです。」

「………。」

「………。」

「………ん?」

「………ん?」

「…いや、説明は?」

「…あ、このスケッチだけではわかりませんでしたか。」

「一切伝わってないが?」

「いやぁ、父はわかってくれたのですが・・・。」

 オーチンとダンディも意外そうな顔をしていた。

「勇者殿、このスケッチで息子が何をやろうとしているかわかりませんですか?」

「ヤマゴン様、割と鈍いんですな。」

「悪かったな!鈍くていいから、説明してくれ!」

 ケッコーチンはヤレヤレという感じで仕方なく説明を始めた。

「いいですか?つまり、勇者様のワーキンガーの成分をこの球体に閉じ込めます。完全密封するので鮮度はそのまま!そしてこのボタンを押してから数秒後に破裂するように設定します。これを敵に向かって投げます。そしたら、敵の大軍もたちどころに大混乱、というわけです。」

「すげー……けど、俺的にはなんか嫌だな。」

「いや、ケッコーチン殿!これは画期的ですな!スキルを使えない者でもヤマゴン様と同じ効果を得られるというわけだ。しかも、味方を巻き込みにくい!」

「我が息子ながら末恐ろしいですじゃ。」

「これはまさにUnavoidable Key Offensive Weapon(不可避で重要な攻撃兵器)!頭文字をとってUNKOW(ウンコー)と名付けます!」

「いや、その名前は止めよう?お願いだから。」

「何故です?」

「ちょっと響きがあんまり・・・。」

「ではなんとなく『エクスカリバー』とかどうですか?」

「ギャップはあるけど、かっこいいからそれにしよう!」

「では早速量産体制に入りますので、勇者様はこちらの特別吸引ルームへお入り下さい。あとはひたすらワーキンガーを使用していただいたら、こちらで採取していきますので。」

「わ、わかった。」

「ではヤマゴン様頑張ってくださいねー。」

 ダンディは漫画を読みながら手だけ振っていた。

「おいっ!」

 ここに、この世界で初となる爆弾が誕生したのである。

 一報、マランデ帝国では各部隊が着々と出撃に向けて準備が進めていた。四隊の合計戦力はおよそ十万。ダンディの話はあまり根拠の無い盛られた推定値であったが、それでも十分と言える戦力だった。

 ペチョペリーナの命令書には全隊で国境付近まで進軍し、そこからミコスリー隊とオギン隊が陽動として正面突破を担当、ナンデーヤ隊とシバーラ隊は進路を偽装し側面からの奇襲をかけるよう書いてあった。

 また、陽動を成功させるために、意図的に全軍をもって堂々と正面突破をするという偽の作戦がチョーパラダイス側に漏れるよう策が練られていた。

 そして、その情報はペチョペリーナの思惑通りチョーパラダイス王国に伝わることになるのであった。