第二話 パラダイス王国の日常

 権造は渡された地図を手に、仕方なく宿を目指した。

街中を見渡すと中世ヨーロッパのような街並みで、電気・ガスのような現代的なインフラは見当たらなかった。

他にも権造はあることに気づいた。

「なんだよ、おい。城の外も美男美女しかいねぇじゃねぇかよ……。あちこちでチュッチュしてやがるし。子供が見てても誰も何にも言ってねぇし。ほんとに自由な感じだな。」

 チョーパラダイス王国ではこれが日常なのである。

さらに、チョーパラダイス王国には外敵から身を守るために騎士団は擁しているが、警察のような組織は存在していない。

 何かあったら騎士団が対応するのだ。それだけ平和な国民性で、とにかくエロに寛容なのである。

「……待てよ。これなら俺もサクッと童貞卒業出来るんじゃ?」

 等と、権造はフラグを立てるようなことを考えた。

もちろんコミュ障の権造には女性とまともに会話をするスキルなど皆無だが、自分が勇者だと言われたことに少し強気になっていた。

 それでもやはり少し人通りの少ない路地を探した。

そして、あまりに吟味を重ねたため、辺りが少し暗くなり始めた頃…。

「おっ、あの子ならいけるんじゃないか……?」

 権造は一人で座って読書をしていた黒髪ロングな色白で清楚系ながらもどこか色気を放つに二十代前半と思われる女性に狙いを定めた。

「あ、あの、あの……、お、俺って勇者らしいんだけど、ちょ、ちょっといいかなぁ…。へへ……。」

 女性は少し驚いたような表情で権造の方を振り返った。

「(めちゃくちゃかわいい……!)」

「え……!貴方が噂の勇者様ですの!?」

「え、噂になってるの?そ、そうみたいなんだよね。へへへ…。」

「確かに、そんな感じが物凄くしますわ。」

 女性は大きくうなずくと権造の顔を眺めた。

「そ、そう?勇者っぽい?か、か、かっこいい?俺の名前は山田権造だから、ヤマゴンって呼んでいいよ♪へへっ。」

「まぁ、勇者様はヤマゴン様と仰るのね。私はタノメバ。タノメバ=ヤラセルーノと申しますの。(勇者としてマランデ帝国と戦うところが)とてもかっこいいと思いますわ♪」

【タノメバ=ヤラセルーノ】

 タノメバは仕事をしている時以外はほとんど読書をしている程本が好きで、本に関係する仕事に就いている。非常におっとりとした性格で、少し天然なところがある22歳の女性。

「(よし、いけるかも…!)じ、じゃあ、勇者様と、き、気持ちいい事したりなんかしない……?へへ……。」

「気持ちいい事って、何ですの?」

 権造の渾身のキモい誘い文句も、タノメバには伝わらず、タノメバは不思議そうな表情で権造を見ていた。

「な、何って、えっと……み、みんなヤってる、あの、その、えっと…。」

「??」

「いや、だからマグ…マグワ……。」

「もしかして『マグワーイ』のことでしょうか?」

「あ、え〜と、そ、そんな感じ、かな。」

「まぁ、勇者様がそんなことを仰るなんて。冗談がお好きですのね♪」

「え…?」

「だって、勇者様は一生『マグワーイ』をしない事を神に誓った事で絶大な力を手に入れられたのでしょう?それなのに、そんな事を本気で仰るはずがないもの。」

「も、もも、もちろん冗談に決まってるよね〜。」

 権造は引きつった顔で必死にごまかそうとしていた。

「でも、本当に勇者様と『マグワーイ』が出来たなら、とてもすごいんでしょうね…。40年近く力を溜め込んでいるんですもの……。」

 タノメバは恍惚の表情で権造の下半身を見つめた。

「(この表情、エロい……!エロ過ぎる!!ヤりたい……!ヤってみたい!)」

「でも、もし勇者でなければ、そんな個性的な顔面で40歳手前にもなって『マグワーイ』をした事ないなんて、とてもキモいですけど、勇者様は″己を犠牲にして一生『マグワーイ』をしない事で得た力によって敵と戦う″んですから、そんな尊大でかっこいい事ありませんわ!もし勇者でなければとてもキモいので近づきたくもありませんが。でも、ヤマゴン様は勇者様なのですから!」

「ぐはっ……!」

「ヤマゴン様?どうされましたの?体調が優れませんの?」

「ははっ…。まぁ、そんな感じかな…。」

「まぁ!それはいけませんわ……!すぐそこが私の家なので、家でお休みください!」

「じゃ、じゃあお願いしてもいいかな(これはもしかしたらワンチャンあるかも!)。あぁ、しんどい……。」

 権造はタノメバに手を引っ張られて彼女の家へ向かった。

女性と手をつなぐのは小学校の運動会で踊ったフォークダンス以来のことだった。

今、権造の全神経は手のひらに全集中していた。

「(あぁ…本物の女の子の手…やわらかくて温かくて、気持ちいいなぁ……。)」

 理由はともかく、こうして、権造はタノメバの家に上がり込むことに成功した。

「お母様、お母様!」

 玄関でタノメバが大きな声で母親を呼ぶと、タノメバと良く似たこれまた紛れもない色白美人の母親が出てきた。姉妹と言われても疑わないレベルだった。

【イエバ=ヤラセルーノ】

 イエバ=ヤラセルーノ44歳。美魔女である。夫と2人で『パンパンスルーノ』というパン屋を営んでいる。学生時代にはその際立った美貌と透明感から、王立パラダイス大学のミスキャンパスに選ばれた事がある。

「あら、どうしたのタノ。そんな大きな声を出して。」

「勇者様、母のイエバですわ。お母様、こちら、あの例の勇者様ですのよ。体調が優れないようなので休んで頂こうとお連れしましたの。」

 権造は全力で仮病を演じた。

「うぁあ……。げ、げふんっ!ごほっ!(これはお母さんでも全然いいな…むしろ……うへへ)」

「まぁ!貴方様が…!それは大変ですわ!」

「あぁ…、お母さん。ちょっと休めばすぐに…うぅ…治りますから……。少しベッドとかで密着して看病してもらえたら、すぐに治りますから……。ぐはぁっ!!」

 純真なヤラセルーノ親子は権造のクソみたいな演技を信じて疑わなかった。

「大変!タノ、早く勇者様をベッドへ!」

「はい、お母様!」

 二人に挟まれて権造はベッドへと運ばれた。途中おっぱいが少し当たったりして、人生で初めての経験に権造は本当に気を失いそうになっていた。

今、権造の全神経は腕に全集中していた。

「(本物の女体というのは、こんなにすごいのか…。ここは天国か…?)」

 なんとか気を保った権造は次の浅はかな作戦に移った。 

「あぁ……、寒い。寒いよぅ。人肌で温めてもらいたいよぅ……。」

「勇者様、私が裸になって温めて差し上げますわ!」

「いえ、お母様!若い私の方が体温が高いので、私が!」

「そうね、タノ、すぐに温めて差し上げて!」

「(キタよコレ!)」

権造のミニヤマゴンはまさにミドルヤマゴンになっていた。

 タノメバが胸元をはだけさせて、まさに権造を包み込もうとしたその時、大柄でマッチョなイケメンが部屋に入ってきた。

権造が奇跡的にたぐり寄せた『蜘蛛の糸』がプツリと切れた瞬間だった。

「帰ったぞ。…おい、どうしたんだ?」

「あ、お父様!」

「そのお方はどなただ?イエバもタノも服を脱ぎかけて、その方と『サンピーマグワーイ』でもするとこだったのか?」

「いいえ、お父様、違いますの。この方はヤマゴン様と仰るあの勇者様ですのよ。体調を崩されて、寒いと仰るので温めて差し上げようしてましたの。」

「なんだって?それは大変だ!よし、俺に任せろ!勇者様!俺の名前はスグ二だ。俺の筋肉熱ですぐに温めてやるぜぃ!ふんっ!」 

【スグニ=ヤラセルーノ

 スグニ=ヤラセルーノ44歳。妻と営んでいるパン屋でパンをこねる作業と妻とパンパンする過程でマッチョになった。

 スグニは力むと筋力でシャツを吹っ飛ばし、一瞬でその鍛え上げられた肉体がむき出しになった。

 権造はただ目を閉じてスグニの熱い抱擁を受け入れるしかなかった。そして、ミドルヤマゴンはミニヤマゴンへと戻っていくのであった。

「(確かに熱い……)」

 権造の目から一筋の涙がこぼれるのであった。

 ――30分後。

「勇者様、もう大丈夫だぜ!すっかり温まったな!」

「さすが貴方、素敵だわ……。ねぇ、私も温めて♪」

「よし!ヤるか!タノ、後は頼んだぞ!ひゃっはー!」

 そう言うと、ヤラセルーノ夫妻は寝室へと消えていった。

「まぁ、お父様お母様ったら。勇者様、お身体はいかがですか…?」

 権造は声を振り絞った。

「もう、大丈夫だと思います…。」

 そう言うと権造は静かにヤラセルーノ家を後にした。

「勇者様!この国をどうかお救いください…!」

「はい……。喜んで…。」