第三話 宿屋の夜

 ヤラセルーノ家を出た後、権造は道に迷ったり、美しい女性達をいやらしい目で横目でチラチラ視姦しながら、権造はなんとかダンディが手配した宿屋に着いた。

「えーと、宿屋ヤリーモク……ここだな。あの…、城のダンディという人にこの宿を紹介されたんですが。」

 受付にはエキゾチックな褐色肌で眼鏡が似合う知的な美女が立っていた。スタイルも完璧だ。名札にはコンヤスールと書かれている。

【コンヤスール=ヤリーモク

「あ、はーい!宿屋ヤリーモクへようこそ!勇者様ですね。承ってます。ニ階の部屋になりますので、ご案内しますねー。セフーレ、ご案内して。ごゆっくりどうぞ♪」

 そう言うとコンヤスールは権造にウインクをした。

「(え?今のウインクは何?誘ってるのか……?)」

 権造が単なる挨拶変わりのウインクに動揺していると、奥からコンヤスールとよく似たショートヘアのこれまた超絶美女が現れた。

【セフーレ=ヤリーモク

「ようこそ、勇者様ー。私セフーレがご案内いたしまーす。」

 権造はセフーレに案内され階段を上がった。権造は緩めのシャツを着ていたセフーレのシャツと肌のすき間に必死に視線を送り込んでいた。

「ねぇ、勇者様。さっき受付にいたのってウチのお姉ちゃんなんですけど、人使いが荒いんですよぉ。」

「そ、そうなんだ。大変だねぇ。へへ……。」

「気に入ったお客さんを見つけると、ウチに仕事を押し付けて夜にお客さんと『マグワーイ』に行くんですよー。」

「えっ!?(さっきのウインクはそういうことか……!)」

「私だってシたいのに、いつもお姉ちゃんばっかり。ひどい話ですよね〜。さすがに、勇者様には手は出さないでしょうけどね。勇者様って、すごく個性的な見た目だしぃ。」

「え、え……?」

「だって、勇者様は私達のためにずっと『マグワーイ』をせずにいるんでしょう?それなのに手を出せるはずがないですよぉ。」

「も、もちろん、俺は『戦うために』、ず、ずっと我慢してるからね…。ヤ、ヤろうと思えば、いつでもヤれたけどね。敢えて、ね。へへへ…。」

「勇者様はすごいな〜。そんな男性初めて見ました。だって、みんなすぐにヤるのが普通だもの。さすが伝説のマグワーズですねぇ!」

「へへっ…。」

「もし、勇者じゃなかったら話かけられるのも嫌ですけどね!でも、勇者だから素敵ですぅ♪」

 屈託のない笑顔でセフーレは権造の精神を砕いた。

 夕食は大食堂で、バイキング形式だった。洋食や刺身など元の世界と似たような物もあり、権造は久しぶりの贅沢な食事に喜んだ。風呂の文化もあり、権造は浴場へ向かった。造りの立派な大浴場で、すでに数人の先客がいるようだった。

「ふぅ、なかなかいい風呂だな。」

 権造は頭にタオルを乗せてこれからのこと考えた。

「(大軍と戦うって、あんま想像出来ないけど、異世界物だとたいてい主人公は無双するよな。でも、俺には特殊なスキルとかないしなぁ。一体どうやって……。)」

 そうこう考えていると、次々と客が入って来るのが見えた。

「(え……!?)」

 最初に入ってきたのは3人の女性達だった。この浴場は混浴だったのである。3人とも美人で、『風呂着』というものを着ているが完璧なスタイルだというのは十分わかった。

「や、やべぇ……。鼻血が出そう。」

 権造が狼狽していると、先に来ていた高身長イケメンが女性達に声をかけ始めた。

「おねーさん達こんばんわー。みんなかわいいね〜。俺はゼツ=リンデス!お名前教えてー。」

 最初に先頭の小柄な女性が答えた。

「私はバック=ガスキー。こっちは妹のキジョーイ。この子は友達のカナリヤ=リマンナノ。」

「わーお、みんな名前も素敵だねー。ヤっちゃう?」

「えー、どうするー?」

 と言いながらも、女性達もどうやらヤる気満々の様子だった。

「あ、そこのおにーさんも一緒にどう?」

 ゼツが権造に声をかけてきた。気まずくて気配を消していた権造はビックリしたが、まさかのチャンス到来である。

「え……!お、お、俺……?(っしゃあぁ!!キタコレ!)」

 しかし、権造を見た女性達は何やらコソコソと話しだした。

「ねぇ、キジョーイ。もしかして、あの人って例の勇者様じゃない……?」

「確かに、私もそう思った。カナリヤどう思う?」

「この国の出身ではなさそうね。物凄く個性的な顔だし。勇者様と『マグワーイ』するわけにいかないわね。物凄く個性的な顔だし。」

「おねーさん達どうしたのー?」

 バックが代表して口を開いた。

「あの、そちらの方はもしかして勇者様なのでは…?だとした『マグワーイ』するわけには…。」

「えっ?……ほんとだ。おにーさん、よく見るとすごく個性的な顔してるね。」

「どういう意味だよ。」

「じゃあ、僕たちだけでしよっか♪『ヨンピーマグワーイ』なんて久しぶりだなー♪」

「一人で私達三人の相手出来るの〜?」

「ふふっ。僕はねぇ、去年の″年末マグワーイコンテスト″で五位だったんだよ。さすがに優勝したナンドーデ=モヤレル氏には敵わなかったけどね〜。」

 キジョーイが思い出したように話しだした。

「そう言えば、聞いたことあるような名前だと思った!準決勝まで会場で見てたんだよね〜。あの時はレベル高かったんだよ。」

「そうなんだー。すごーい!」

 バックとカナリヤの目が輝いていた。

「じゃあ、行こうか〜。勇者のおにーさんまたね〜。マランデを倒してね〜。」

 そう言うとゼツ達は温泉に設置されていた『マグワーイルーム』へと入っていった。その後、ルームからはキャッキャウフフな声が聞こえてくるのであった。

「いいんだ……。俺は勇者だから……。」

そう呟きながら、権造はその後も入浴に来る女性達をただただ眺めるのだった。

 すっかりのぼせあがり、部屋に戻った権造は備え付けのドリンクバーに手を伸ばした。中には数種類のドリンクが入っていた。

「なんだこれ。『夜の!一発!ラポビテンX』?栄養ドリンクか。こっちは『すっごくドライ』、ビールみたいな物だな。久しぶりに酒でも飲んでみるかな。」

 金欠でしばらく酒を買う金もなかった権造は久々のアルコールに酔いしれた。チョーパラダイス王国を代表する名酒である『すっごくドライ』。国内有数の酒蔵、ユウヒ酒造が造るビールに似た酒であった。

「ふぃ〜。これうめぇな。はぁ〜、それにしてもエロかったな…。どの子もかわいいし、スタイルいいし、目のやり場に困らなかったぜ。あ〜、ムラムラする…。もう外は暗いし…顔がよく見えなかったらワンチャンいけたりしないか……?」

 そう言いながら権造は部屋を見渡した。

「…ん?地図に何かくっついてるな。」

テーブルに置いていたダンディにもらった地図の裏に何やらメモと小袋が付属されていた。

「なんだこれ。気付かなかったな。『勇者様へ。どんなにムラムラしても絶対にヤってはいけませんよ。たぶん大丈夫とは思いますが。暗闇に乗じて、とかしょうもないことは絶対考えないでくださいね。』。…バレてるっ!」

 小袋の中には錠剤が入っていた。どんなにムラムラしていても性欲を抑えるという国内有数製薬会社、シコヤバ製薬の『ムラオサエール』という薬だった。

「これを飲めって?……セルフもダメなのか?いや、セルフはいいだろう。たぶん。」

よく見ると、小袋の裏にも何か書いてあった。そこには『セルフでするのはご自由に』と書いてあった。

「なんで全部お見通しなんだよ……。」

 そして、権造はその夜、浴場での光景を思い出しながら、セルフサービスを開始するのであった。

 その時、部屋のドアをコンコンとノックする音が聞こえた。権造は慌ててズボンを上げてドアに向かった。

「どうも〜。来ちゃいました〜。」

 部屋の照明を暗くしていたためはっきりとは見えなかったが、声とメガネのシルエットから、どうやら受付のコンヤスールのようだった。コンヤスールは権造をグイグイ押すとベッドに押し倒した。

「(え?え?もしかして、俺、奪われちゃう!?やっばりあのウインクはそうだったんだ!)」

「お兄さん、受付の時から目をつけてたんだぁ〜♪ねぇ、いいでしょお〜?」

コンヤスールが耳元で囁く。少し酔っ払っているようだった。一方の権造はそれだけでもう昇天しそうになっていた。

「も、も、もちもち、もちもちもっちもち、もちんろん、いいいいいいいいひひひひいいぃ…。」

「……あれ?」

 すでにズボンを脱がし、下着に伸ばしていたコンヤスールの手が止まった。

「あの、お兄さん…。ゼツ=リンデスさん……だよね?」

「い、いえ…山田、権造です…。勇者です……。」

 みなさんの予想通りの展開である。

「あ〜…。なるほどぉ…。なるほどですねぇ。」

 コンヤスールは静かに立ち上がり、ゆっくりと後ずさりしていった。

「勇者様〜。良い夢を〜…。」

 と言葉を残しコンヤスールは暗闇に消えて行くのであった。

 その後、権造は『ムラオサエール』を飲んで静かに布団に入るのであった。『ムラオサエール』の効果は抜群だったと、後に権造は語っている。