
プロローグ

真夏の昼下がり。一人の男がハローワークから出て来る。
スーツは着ているが、ズボンにすでに折り目は無くジャケットもシワやほつれがあり、お世辞にも仕事が出来るようには見えない冴えない風貌だった。
山田権造(やまだ ごんぞう)。三九歳。無職で童貞。子供の頃からあだ名は大体ヤマゴン。
好きで仕事をしてないわけじゃないが、一ヶ月前に色々(常習的な遅刻、女性社員への視姦、職場のパソコンで卑猥なサイトの閲覧+うっかり有料サイトへの課金)あって、当時の職場をやむ無く退職した(させられた)。
元々職を転々としており、貯金と言えるものもほとんど無く、スーパーで値下げされた商品を買って食いつないで状況だった。
今日も今日とてハローワークに赴いてみたが、なかなか希望(楽そうで若い女の子が多そうな職場)通りの求人が見つからない。
「はぁ〜。なんて俺に対して厳しい世の中なんだ。こんなに一生懸命頑張ってるのになぁ・・・。今流行りの『異世界』にでも行って、俺もウハウハな人生を送たいぜ・・・。」
そうつぶやきながら家の玄関を開けると、いつもの狭くてどんよりとした部屋が目に映る。
「はぁ〜・・・。」
部屋の片隅でカップラーメンをすすり、することのない権造はさっさと寝ることにした。
「目が覚めたら異世界、なんちゃってな。」
普段寝付きの悪い権造だが、その日は何故か妙に早く寝付くのだった。
権造は薄れゆく意識の中で、何か呼びかける様な声を感じた。
「……だいま、…経験が全く…四十歳…れが冴え…男性を募集…ーす。」
「(なんだ、これは…。)」
「今な…、目標を達・・・ら、好き…『マグ…も!待っ…ーす♪」 そんな声を聞きながら権造は眠りに落ちた。